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岡山地方裁判所 昭和52年(ワ)16号 判決 1983年1月31日

昭和五二年(ワ)第一六号・

有限会社丸福運輸

昭和五四年(ワ)第一九六号事件原告・

昭和五二年(ワ)第三八〇号事件被告

昭和五二年(ワ)第七一〇号事件原告

河田洋子

昭和五二年(ワ)第一六号・

北木フエリー株式会社

第七一〇号事件被告・

昭和五二年(ワ)第三八〇号事件原告

昭和五二年(ワ)第七一〇号・

掛本成夫

昭和五四年(ワ)第一九六号事件被告

主文

一  被告北木フエリー株式会社および被告掛本成夫は各自、原告有限会社丸福運輸に対し、金三五四万〇八一七円とこれにつき昭和五一年四月一七日から支払ずみに至るまで年五分の割合による金員を支払え。

二  被告北木フエリー株式会社および被告掛本茂夫は各自、原告河田葉子に対し、金九九万八四四五円とこれにつき昭和五一年四月一七日から支払ずみに至るまで年五分の割合による金員を支払え。

三  原告有限会社丸福運輸および原告河田葉子のその余の各請求をいずれも棄却する。

四  反訴原告北木フエリー株式会社の請求を棄却する。

五  訴訟費用は、原告有限会社丸福運輸、同河田葉子と被告北木フエリー株式会社、同掛本茂夫との間に生じた分についてはこれを二分し、その一を右原告両名の、その一を右被告両名の各負担とし、反訴原告北木フエリー株式会社と反訴被告有限会社丸福運輸との間に生じた分については反訴原告の負担とする。

事実

第一当事者の申立

一  請求の趣旨

(昭和五二年(ワ)第一六号事件)

1  被告北木フエリー株式会社は、原告有限会社丸福運輸に対し金八九六万八五一七円およびこれにつき昭和五一年四月一七日から支払済に至るまで年五分の割合による金員を支払え。

2  訴訟費用は同被告の負担とする。

3  仮執行の宣言。

(昭和五二年(ワ)第三八〇号事件―反訴)

1  反訴被告有限会社丸福運輸は、反訴原告北木フエリー株式会社に対し金二五八一万九二三五円およびこれにつき昭和五二年七月六日から支払済に至るまで年五分の割合による金員を支払え。

2  訴訟費用は反訴被告の負担とする。

3  仮執行の宣言。

(昭和五四年(ワ)第一九六号事件)

1  被告掛本成夫は、原告有限会社丸福運輸に対し金八九六万八五一七円とこれにつき昭和五一年四月一七日から支払済に至るまで年五分の割合による金員を支払え。

2  訴訟費用は同被告の負担とする。

3  仮執行の宣言。

(昭和五二年(ワ)第七一〇号事件)

1  被告北木フエリー株式会社および被告掛本成夫は、各自原告河田葉子に対し金一八三万〇二二五円とこれにつき昭和五一年四月一七日から支払済に至るまで年五分の割合による金員を支払え。

2  訴訟費用は同被告らの負担とする。

3  仮執行の宣言。

二  請求の趣旨に対する答弁

(昭和五二年(ワ)第一六号、第三八〇号、第七一〇号、昭和五四年(ワ)第一九六号各事件とも共通)

1  原告(反訴にあつては反訴原告)の請求を棄却する。

2  訴訟費用は原告の負担とする。

第二当事者の主張

一  請求の原因(昭和五二年(ワ)第一六号関係)

1  原告有限会社丸福運輸は、貨物自動車を用いて石材等を陸上運送する会社であり、被告北木フエリー株式会社は、フエリーボート「第一こくさい丸」を用いて車両の海上運送を目的とする会社である。

2  昭和五一年四月一六日、原告は被告に対し、原告所有の大型貨物自動車一台(石材積載のもの)を笠岡市北木島から同市伏越の伏越港フエリーボート発着場岩壁まで有償で海上運送することを依頼し、被告はこれを承諾した。

3  原告は、右契約に基づき、右同日大型貨物自動車を被告所有の「第一こくさい丸」に乗船させ、被告はこれを海上運送したが、午後五時ころ、笠岡市伏越の伏越港で「第一こくさい丸」が転覆し、原告所有の石材積み大型貨物自動車は海中に落下した。

4  右事故により、原告はつぎの損害を蒙つた。

(一) 大型貨物自動車を失つた損害金六〇七万六八一五円右車両は、原告が昭和五〇年七月二五日に訴外岡山三菱ふそう自動車販売株式会社から新車として金八一〇万円で買取り使用中のものであつたが、事故後スクラツプと化し、次の車両を買う際、右訴外会社で金七〇万円で下取りしてもらつた。右車両は税務上の償却期間は四年間と定められているので、事故当時の価額は金六七七万六八一五円相当(その計算式は別紙目録(一)のとおり)であつたが、事故のため金七〇万円以下の価値となつた(下取価額は実際の価値より高く評価される)。そこで、この差額金六〇七万六八一五円が結局本件事故による損害である。

(二) 事故車両買換えに伴う損害金三一万二三一〇円

原告は、本件事故で大型貨物自動車を使用不能にされ、新車を買換えたが、これに伴い、(1)自動車取得税二一万円、(2)重量税五万六〇〇〇円、(3)自動車税二万四六六〇円、(4)売買契約公正証書作成費用九〇〇〇円、(5)登録手数料一万二六五〇円(合計三一万二三一〇円)の支払を余儀なくされ、同額の損害を蒙つた。

(三) 石材を失つた損害金 九八万四〇〇〇円

右石材は、原告が訴外滝口譲から運送を依頼され預り保管中のものであつたが、本件事故によりその総てを失い、原告においてその対価を支払つたものであり、その明細は別紙目録(二)のとおり。

(四) 休車損金 一一〇万三三九二円

原告は、本件事故により事故当日から次に新車を購入した昭和五一年七月八日までの間、大型貨物自動車の使用ができず、この期間大型貨物自動車による得べかりし利益を喪失した。

ところで、本件事故前事故車両により原告が得ていた営業利益は別紙目録(三)のとおりで、一日平均利益は金一万三四五六円である。従つて、右休車期間の営業利益額は八二日×一万三四五六円=一一〇万三三九二円となる。

(五) 休車による人件費損金 四九万二〇〇〇円

原告は、本件事故当時、月給金一八万円で訴外来島二見を事故車の専属運転者として使用していたが、原告は前記休車期間中も同人に月給を支払つたので、その損害は金四九万二〇〇〇円となる(その計算式は別紙目録(四)のとおり)。

5  原告の右損害は総て被告が大型貨物自動車を安全に伏越港岩壁まで運送する義務に違反したことにより生じたものであるから、原告は、右債務不履行に基づき被告に対しその損害賠償とこれにつき事故発生の翌日である昭和五一年四月一七日から支払済に至るまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。

二  請求原因の認否

1・2・3項の事実は認め、4項(原告の損害)は不知。5項は争う。

三  被告北木フエリーの主張

1  本件事故につき、被告北木フエリー株式会社に過失はない。昭和五一年四月一六日午後四時ころ、「第一こくさい丸」(以下船という)は、笠岡市北木島町豊浦港の発着場から後記車両を乗せ出港した。乗組員は野田山道明船長(被告会社従業員)、掛本成夫機関長(被告会社代表者)、河田須和雄甲板員(被告会社従業員)の三名であつた。

豊浦港での積付けの時は、一一トン積トラツク、ライトバン、二トン積トラツク、四・五トン積トラツク、四・五トン積トラツク、六・五トン積トラツク(八トントラツクと言われているもの。以下本件トラツクという)、四・五トン積トラツク、三・五トン積ダンプトラツク、乗用車の順に、それぞれ後方から順次左右交互に、いずれも船首方向に向けて左右傾斜のない状態に積付け、更に自転車を本件トラツクの左舷側に積んだ。豊浦港を出航後、航行中の船は左右のバランスはよく保たれていた。当時天候は晴で、風も殆んどなかつた。船は、同日午後五時ころ、笠岡市伏越の北木フエリー専用船着場に到着、桟橋に向首して真直ぐに接岸し、ランプゲート(自動車の上陸橋)を桟橋上に降ろして、機関を全速力前進にかけてその位置を保つていたが、船が桟橋から離れたり、揺れたりすることはなかつた。

乗用車、三・五トン積ダンプトラツクの順で上陸した後、掛本と河田が右舷側の四・五トン積トラツクに上陸するよう指示した。

ところが、左舷側にいた吉岡正樹(原告会社従業員)運転の本件トラツクが突然発進し、掛本および河田が制止したにも拘らず、ランプゲート、更に桟橋の傾斜面に進入した。

しかし、本件トラツクは最大積載量を著しく超過する約一四トンの石材を積んでいたため、後輪がランプゲートを渡つたばかりのところの桟橋上でエンストした。河田は直ちにその右後輪に車止めを施した。

吉岡は二、三回エンジンをふかし、桟橋を上ろうとしたが、本件トラツクは一進一退を繰返えすだけで、そのうち過積のため車止めを越えて後方にすり下り、ランプゲートに乗つてきた。

そこで、掛本成夫は本件トラツクを引きあげようとブルドーザーを手配したが、これが間に合わない状態であつたので、危険を感じた掛本は吉岡に対し左にハンドルを切つて元の位置に戻るよう指示したが、吉岡は船の左側に戻ることができず右側に更に後退した。そのため既に右舷側に傾いていた方に更に荷重がかかり、同日午後五時一〇分ころ、船は右舷側に転覆し、船上にあつた七台の車両と車両に積んだ石材が水没した。

このように、本件船転覆事故発生の原因は、本件トラツクの積荷積載超過によるエンストならびに右積載超過と本件トラツクを運転していた前記吉岡の運転技倆未熟が原因となつて既に右舷に傾いていた船の右側に降りてきたため(船の左側に戻れなかつた最大の原因は、とりもなおさず著しく積載超荷していたことから船の傾斜に勝てなかつたものとみられる)であつて、これらは総て吉岡の過失によるものであり、被告会社およびその従業員である船の乗組員には何ら過失はない。

2  仮に、被告会社に損害賠償責任がありとしても、本件事故の発生については、原告にも前記のとおり過失があるから、損害賠償額の算定にあたり過失相殺されるべきである。

四  反訴請求原因(昭和五二年(ワ)第三八〇号関係)

1  反訴原告は、フエリーボートを用いて車両を海上運送する会社、反訴被告は、貨物自動車を用いて石材等を陸上運送する会社である。

2  昭和五二年(ワ)第一六号事件(本訴)の請求原因3項記載の船転覆事故により、反訴原告所有の本件船が運送していた一一トン積トラツク一台、反訴被告所有の本件トラツク一台、四・五トン積トラツク三台、一・五トン積トラツク一台、ライトバン一台、および右各トラツクに積んでいた石材が海中に沈没した。

3  本件船転覆事故発生の原因は、昭和五二年(ワ)第一六号事件における三、被告北木フエリーの主張1に掲記のとおりである。

4  右3のとおり、本件事故は反訴被告の従業員吉岡正樹の過失により発生したものであり、吉岡は当時反訴被告の事業の執行中であつたから、反訴被告は民法七一五条により本件事故で反訴原告が受けた損害を賠償すべき責任がある。

5  本件事故による反訴原告の損害は、つぎのとおり。

(一) 本件船の破損 金九〇〇万円

本件事故により本件船は使用不能となつたが、事故当時反訴原告は新たな造船を準備中で、本件船を一三〇〇万円で訴外伸和産業株式会社に下取りしてもらうことゝなつていた。ところが、本件事故のため下取り価格は四〇〇万円となり、反訴原告はその差額九〇〇万円の損害を蒙つた。

(二) 休航による損害金五〇四万円

本件事故で、反訴原告は事故当日から四二日間休航を余儀なくされたが、昭和五〇年における反訴原告の一日当りの平均収入は一二万円を下らない。そこで、反訴原告の休航による損害は、金一二万円×四二日=五〇四万円となる。

(三) 船、車両等の引揚げ等の費用 金五四〇万九二三五円

(1) 潜水費用 二六万五四〇〇円

(2) 起重機船費用 一五〇万円

(3) 石材引揚げ、海底浚渫船費用 二〇万円

(4) 本件船の曳航費用 一〇万円

(5) 石材運搬船費用 三一万円

(6) 人夫等運搬船費用 一三五万円

(7) 車両の陸上運搬費用 二五万円

(8) 石材の陸上運搬費用 一八万円

(9) 油吸収マツト代 三六万三〇〇〇円

(10) オイルフエンス代 三九万九〇〇〇円

(11) 動力用石油代 五万六六八〇円

(12) 電気工事費 一万五一五五円

(13) 人夫の飲食費 四二万円(四二日間で少くも延べ420人)

(四) 水没車両、石材に対する補償金七二〇万円

(1) 河田徳一に二七五万円

三菱ふそう四・五トン積トラツクの車両代一五〇万円と石材代一二五万円

(2) 中島道雄に二二〇万円

日野四・五トン積トラツクの車両代と石材代

(3) 藤永政成に六五万円

ダイハツ一・五トン積トラツクの車両代六〇万円と石材代五万円

(4) 小見山勇志に七〇万円

三菱ふそう四・五トン積トラツクの車両代

(5) 阿部裕次に六〇万円

いすゞライトバンの車両代

(6) 奥田満に三〇万円 石材代

6  よつて、反訴原告は、反訴被告に対し右損害金のうち金二五八一万九二三五円とこれにつき反訴被告へ反訴状送達の翌日たる昭和五二年七月六日から支払済に至るまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。

五  反訴請求原因の認否

1  2項の事実は認める。

3項のうち、吉岡正樹運転の本件トラツクが突然発進し、掛本、河田が制止した事実は否認。吉岡は反訴原告従業員の自動車誘導員河田須和雄の発進の指示に従い発進させたにすぎない。

4項のうち、右吉岡が反訴被告の従業員であるとの事実は否認。同人は河田葉子(昭和五二年(ワ)第七一〇号事件原告)の従業員である。

5項(損害)の事実は不知・6項は争う。

六  請求原因(昭和五四年(ワ)第一九六号関係)

1・2・3項は、昭和五二年(ワ)第一六号事件の請求原因と同一である(但し、1項に被告掛本成夫は、被告北木フエリー株式会社の代表取締役であり、フエリーボート「第一こくさい丸」の機関長であると付加する)。

4 ところで、本件事故は、被告掛本が右フエリーボートを岸壁に接岸するのに、ロープによる繋留をなさずに、単に船と岸との間に「すべり」と呼ばれる渡り板をわたしただけで、車両の陸揚げを行つたこと、当時積荷が非常に多く車両の陸揚作業をするのに危険が生じやすい状況にあつたのであるから、他の甲板員らの従業員と十分な事前打合せ等をして車両の陸揚げ誘導をすべきであつたのに、これを怠つた等の過失により発生したものである。

5 右事故により原告が蒙つた損害は、昭和五二年(ワ)第一六号事件関係の請求原因4項の記載内容と同一である。

6 よつて、原告有限会社丸福運輸は、被告掛本成夫に対しては民法七〇九条に基づき、前記損害金合計八九六万八五一七円とこれにつき事故発生の翌日から支払済に至るまで民法所定の年五分の割合による損害金の支払を求む。

七  請求原因の認否

1・2・3項の事実は認める。

4項の事実は否認。

5項(原告の損害)は不知。

6項は争う。

なお、被告掛本に関しても、仮に損害賠償責任ありとされる場合には、昭和五二年(ワ)第一六号事件の被告(北木フエリー株式会社)と同様の過失相殺の主張をなす。

八  請求原因(昭和五二年(ワ)第七一〇号関係)

1  原告河田葉子は、石材の販売を業とする者、被告北木フエリー株式会社、被告掛本成夫については、昭和五四年(ワ)第一九六号事件関係の請求原因に掲記のとおり。

2  昭和五一年四月一六日、原告は被告会社に対し、原告所有の貨物自動車(三菱ふそう自動車八トン車・石材積載のもの)一台を笠岡市北木島から同市伏越の伏越港北木フエリー専用船着場まで有償で海上運送することを依頼し、被告会社はこれを承諾した。

3  右契約に基づき、被告会社は右同日原告所有の右石材積み貨物自動車一台を「第一こくさい丸」に乗船させ海上運送したが、午後五時ころ、笠岡市伏越港で右船が転覆し、原告所有の前記自動車は海中に落下した。

4  右事故は、被告掛本の過失により発生したもので、その内容は、昭和五四年(ワ)第一九六号事件関係の請求原因4項に掲記のとおり。

5  この事故で、原告河田はつぎの損害をうけた。

(1) 車両損 一五〇万円

海中に落下の貨物自動車は、原告が昭和五〇年一〇月に訴外岡山三菱ふそう自動車販売株式会社から金二三四万円で購入した中古車(四九年式)で、事故当時二〇〇万円相当の価値を有していたが、事故により破損し、右訴外会社に五〇万円で下取りしてもらつた。従つて、この差額金一五〇万円の損害を蒙つた。

(2) 石材損 三三万〇二二五円

右車両に積んだ石材は、原告が訴外株式会社奥田石材本店より金三三万〇二二五円で買受けていたものであるところ、本件事故でこれを失ない、同額の損害をうけた。

6  原告の右損害は、被告会社の海上運送の債務不履行によるものであり、また、被告掛本の4項記載の過失により生じたものである。

よつて、原告河田は、被告会社に対しては右債務不履行に基づき、被告掛本に対しては民法七〇九条により、前記損害の賠償とこれにつき事故発生の翌日以降支払済に至るまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求む。

九  請求原因の認否

1・2・3項の事実は認める。

4項の事実は否認。

5項の事実は不知。

6項は争う。

仮に、被告らに損害賠償責任がありとされる場合には、被告らは、昭和五二年(ワ)第一六号事件と同様の過失相殺の主張をなす。

一〇  原告有限会社丸福運輸(反訴被告)、同河田葉子の主張の補充

1  被告らの過失相殺の主張については争う。

2  また、訴外吉岡に過失があるか、反訴被告に過失があつて、反訴被告に反訴原告に対し損害賠償義務があるとしても、本件事故の主たる原因は反訴原告側の過失にあり、損害賠償額の算定にあたり過失相殺されるべきである。

即ち、反訴原告の従業員野田山船長は、潮が干潮に近いため船が低く、船の甲板やランプゲートと岸壁のすべりとの間に段差があり、ランプゲートとすべりが急勾配になつていたので、車が上陸する際、船が岸壁から離れたり揺れたりしないように、船と岸壁との間をロープで固く繋留すべきであつたのにこれをしなかつた。

さらに、誘導員河田須和雄は、二台の車を上陸させた後、吉岡運転の八トン車を発進させ、これがすべりの途中でエンストを起して停まつた時、陸上から車で引つ張りあげるべきであつたのに、船が右舷に傾斜しているのを知りながら、八トン車の後輪の車止めをはずし同車を船内に後退させた。

その結果本件事故が発生したものであるから、本件事故は反訴原告に責任がある。

八トン車の運転手吉岡は、上陸の際誘導員河田の指示で発進し上陸を開始し、すべりの途中で停つた後も河田の指示で後退したにすぎないのであるから、本件事故に関し何ら落度はない。

第三証拠〔略〕

理由

第一当事者間に争いがない事実

昭和五二年(ワ)第一六号、第七一〇号、昭和五四年(ワ)第一九六号関係の各請求原因1、2、3項。

昭和五二年(ワ)第三八〇号関係の請求原因1、2項。

第二争点に対する判断

一  有限会社丸福運輸、河田葉子に対する北木フエリー株式会社の海上物品運送契約に基づく債務不履行による損害賠償責任。

1  成立に争いのない乙第一八、第二四、第二五、第二七号証によると、訴外野田山道明は、丙種船長の海技免状を有し、昭和四七年一二月から本件事故船舶である汽船第一こくさい丸(総トン数一〇八トン二四)に船長として乗組み、自動車航送のための同船の操船並びに運航の業務に従事していたこと、被告掛本成夫は、本件事故発生船舶を所有すると共に、丙種機関長の海技免状を有し、昭和四六年ころから本件船舶に機関長として乗組み、海上運送の目的物である自動車等車両の誘導積込みおよび陸揚げ作業に従事し、被告北木フエリー株式会社(以下被告会社という)の代表取締役でもあること、訴外河田須和雄は、昭和五一年二月から本件船舶の甲板員として乗組み、前記運送の目的物である自動車等の誘導積込みおよび陸揚げ作業に従事していたもので、本件事故発生当時訴外野田山と共に被告会社の従業員であつたことが認められる。

2  成立に争いのない乙第八、第一九、第二一、第二三ないし第三六、第四五ないし第四七号証によると、つぎの事実が認められる。

訴外野田山、同河田および被告掛本の三名は、昭和五一年四月一六日午後五時ころ、本件船舶である第一こくさい丸を岡山県笠岡市の笠岡港伏越にある被告会社専用フエリー発着場(すべりともいう。構造はコンクリート製で、陸岸が高さ二、一メートル、横幅は五、一メートル、陸岸から一三、六メートルの長さで南方に突出ており、南方先端に向つて下方に傾斜し、傾斜角度は陸岸から七、六メートルまでは約五度、そこから三、八メートルまでは約一五度、同所から下方へ約〇、六メートルの段差があり、なお約一五度の傾斜で先端までは約二、二メートル。すべりは、陸岸から南方へ一一、四メートル、即ち段差のあるところまではコンクリートで積み固めてある)に接岸して、ランプゲート(渡し板)をおろし、同船の積荷車両(普通乗用車一台、ライトバン一台、一一トントラツク一台、八トントラツク一台、四、五トントラツク三台、三、五トンダンプ一台、二トントラツク一台)の陸揚げにあたつた。

この時干潮に近く、すべりおよびランプゲートは上り勾配がきつく、そのため重量物積載のトラツク等の上陸は困難であることを船長の野田山、機関長兼船主の被告掛本、甲板員の河田は、いずれも認識していた。しかし、接岸の方法としては、船の機関を前進にかけて船首を桟橋につけるにとどまり、それ以上に適切な係留策をとらず、車両の陸揚げ誘導にあたつても、左舷部分に乗せていた本件トラツク(前記八トン車―岡一一は二八六二、最大積載量六、五トン、車両重量七、九一〇トン、車台番号CK二〇L―一一〇三〇、車長八、九メートル、ユニツク付)が前進上陸を開始したおり、その反動で船体が右舷側にいく分傾く状態となつた。

一方、本件トラツクは、ランプゲートからすべり部分に発進したものの、積載過重とすべり面の勾配がランプゲートよりきついことから前進困難となつたが、本件トラツクを含め積荷車両の上陸誘導に当つていた被告掛本、訴外河田の両名は、右トラツクの右後輪に木製の車止め一個を配しただけで、同車があくまで自力ですべり部分を駆け上ろうとするに委せ、右トラツクの各車輪に車止めを置き、その運転者吉岡正樹にもブレーキをかけさせた後、すべりに接続する陸上平坦道路部分から他の車両等の応援を得て、ワイヤローブ等により牽引してもらう等の方法をとらずにいた。かかる状態の本件トラツクは、遂に一進一退の後、その反動で車止めをこえて再び船内に後退するのやむなきに至つたが、この期に及んで、船体がいく分か右舷寄りになつているのを知つた被告掛本が、右舷部への後退は船体を益々不安定にし危険と感じ、右運転手吉岡に対し左転把のうえ左舷部への後退を指示したが、既に時宜を失しており、トラツクは自重と船体の右傾から自ずと右舷部へずれ込む形となり、このため遂に船体は午後五時一〇分ころ右方へ横転する状態で転覆した。

この間にあつて、船橋で操船していた船長の野田山は、被告掛本や河田に船体が右傾した状態のままでの本件トラツクの後退乗船を防止するため、同人らにその状態を認識させて船内乗入れを制止することをせず、車両誘導に当つた被告掛本らも、船長との連絡を十分とらぬままにトラツクを船体不安定な船内に後退させてしまつた。

3  以上認定の事実によれば、本件転覆事故は、積荷である車両の陸揚げにあたり、被告会社の従業員および代表者らの過失の競合により発生したものというべきであるから、被告会社は有限会社丸福運輸および河田葉子に対して、同人らが本件事故により蒙つた損害を賠償すべき責任がある。

二  有限会社丸福運輸、河田葉子の本件事故による損害。

1  有限会社丸福運輸が蒙つた損害

(一) 成立に争いのない甲第一七号証、乙第三六号証、原告会社代表者河田成喜尋問の結果およびこれにより真正に成立したものと認められる甲第一、第二号証を総合すると、原告会社(有限会社丸福運輸をさす、以下同じ)は、本件事故によりその所有にかかる大型貨物自動車(岡一一か三五八一)が海中に水没し使用不能となつたため売却処分せざるを得なくなつたが、その価格は金七〇万円にとどまつたこと、本件事故発生当時の右自動車の時価は、昭和五〇年式、型式FU一一三N、三菱ふそう自動車製作のもので昭和五〇年七月に買受けたものであるところからして金三九七万円を下ることはないこと、従つて、前記処分価格との差額相当額の金三二七万円を下らない損害を蒙つたことが認められる。これを超える分についてはその事実を認めるに足る証拠がない。

(二) 前記河田成喜尋問の結果とこれにより成立を認め得る甲第三、第四号証によると、原告会社は本件事故により(一)の大型貨物自動車が使用不能となつたので、昭和五一年七月八日に、岡山三菱ふそう自動車販売株式会社から同一車種の貨物自動車を購入したが、この買入れに伴ない合計金三一万二三一〇円(その明細は昭和五二年(ワ)第一六号関係の請求原因4項(二)に掲記のとおり)の支払を余儀なくされ、同額の損害を蒙つたことが認められる。

(三) 前記乙第三六号証、前記河田成喜および原告河田葉子本人尋問の結果とこれらによつて成立を認め得る甲第六、第七号証を総合すると、原告会社は、本件事故発生当時、従業員の来島二見に(一)の大型貨物自動車(岡一一か三五八一)を用いて、別紙目録(二)記載の石材(荷主の滝口護から運送依頼をうけ保管中のもの)の運送に当らせていたところ、右自動車が水没し、積荷の石材も使用に耐えなくなつた結果、原告会社から荷主の滝口に石材の代価相当の金九八万四〇〇〇円を支払い、同額の損害を蒙つたことが認められる。

(四) 前記乙第三六号証、前記河田成喜、河田葉子各本人の尋問の結果とこれらにより成立を認め得る甲第一〇号証を総合すると、昭和五二年(ワ)第一六号関係の請求原因4項(五)の事実(訴外来島二見に金四九万二〇〇〇円を給料として支払)を認定できる。

(五) 原告会社の休車損については、原告会社代表者河田成喜、原告河田葉子各本人尋問の結果とこれらによつて成立を認め得る甲第八号証の一ないし七、第九号証の一ないし四、第一六号証の一ないし二四を総合すれば、本件事故前八か月間(昭和五〇年八月から翌年三月まで)の本件事故による被害自動車(岡一一か三五八一)による売上げが原告会社主張どおりであることは窺えるものの、経費の内容が明確にされない(車両の償却費は事故当時の残存価格金三九七万円を基準として平均的に消耗するとの前提で算出することが不可能ではないにしても)結果、純利益金を合理的に推認することができない。

尤も、右経費について、原告会社代表者河田成喜尋問の結果中には、運転手の給料・車両の償却費・燃料代・フエリー運賃・保険料等で大体平均して売上げの五割位であつた旨の供述があるが、その算出根拠も明らかでなく、これをもつてただちに経費をその程度と認定することもできないので、結局休車損についてはこれを認定するに足る証拠がないことに帰する。

2  河田葉子が蒙つた損害

(一) 成立に争いのない乙第二九号証、前記河田成喜、河田葉子各尋問の結果とこれらにより成立を認め得る甲第一四、第一五号証によると、原告河田は、本件事故当時その所有にかかる本件トラツク(岡一一は二八六二、訴外吉岡正樹運転)を用いて、荷主の株式会社奥田石材本店から石材を運送のため預り運搬中のところ、本件事故で右石材を水没させた結果、使用に耐えなくなつた分に相当する損害の弁償として右奥田石材本店に金一〇万六三五〇円を支払つたことが認められる。右金額を超える分についてはその事実を認めるに足る証拠がない。

(二) 成立に争いのない乙第一九、第二九、第八三号証、原告河田葉子本人尋問の結果とこれにより成立を認め得る甲第一二、第一三号証を総合すると、原告河田は、本件事故でその所有たる本件トラツク(岡一一は二八六二)を海中に水没させられ使用できなくなつたため売却処分を余儀なくされたが、その価格は金五〇万円にとどまつたこと、本件トラツクは、昭和五〇年九月一六日に同原告が訴外岡山三菱ふそう自動車販売株式会社から金二三四万円で購入した中古車(年式は昭和四九年式、車検有効期間は昭和五一年五月一一日まで)であるが、右購入後本件事故当日までの二一四日間は主として石材の販売、運送用に使用していたことが認められる。この事実から同車の残存使用可能期間は昭和五三年五月一一日までの七五五日間と考えられる(同車両の耐用年数が少くとも四年間を下らないことは税務上の償却期間を参考とした)ので、事故当時の同車両の時価は金一八二万円を下らないものと推認し得る(この価格は金二三四万円×九六九日分の七五五日により求めた)。

そうすると、原告河田は、本件事故のため現実の処分価格との差額金一三二万円相当の損害を蒙つたものと認められる。

三  被告掛本成夫の損害賠償責任。

1  不法行為責任の有無

第一(争いなき事実)、第二の一で認定した事実によれば、被告掛本成夫においても、民法七〇九条により、本件船舶転覆事故に基づく原告会社並びに原告河田葉子の各損害を賠償すべき責任があると言わざるを得ない。

2  原告会社、原告河田葉子の本件事故による損害

これらについては、いずれも第二(争点に対する判断)の二において認定したとおりであるから、これをここに引用する。

四  過失相殺

成立に争いのない乙第二九、三〇、八一、八三号証によると、本件トラツク(岡一一は二八六二)の運転手吉岡正樹は、本件事故発生当時、同車両に許容積載量の二倍近い石材を積込んでおり、そのため上陸時にすべり勾配を上りきれず、それが本件事故を発生させる一因となつた事実が認められる。ところで、右吉岡は、原告河田葉子本人尋問の結果によると、同原告の雇用運転手でもあるが、同人の営む石材販売の仕事がきれたときは、原告会社の営む自動車運送の仕事にも携わり、給料も原告会社の雇用運転手と同様に原告会社の方で支給していたこと、本件トラツクが原告会社の運送業のために使用され、その運賃収入が原告会社の所得となることさえあり、もともと本件トラツクの所有名義を原告河田葉子(同女は原告会社代表者河田成喜の妻)名義としたのも、原告会社の営業保有台数を超えることとなるのを避けるとの事情も伏在していたことが前記証拠から認められる。これらの事実に、さきに認定した本件船舶転覆事故における被告会社および被告掛本成夫らの過失の態様等(第二の一、三1参照)諸般の事情を考慮するとき、原告会社、原告河田の両名にも被害者側の過失があるものとして、過失相殺として右原告両名の各損害のそれぞれ三割を減ずるのが相当と認められる。

そうすると、結局、原告会社の損害額は金三五四万〇八一七円、原告河田葉子の損害額は金九九万八四四五円となる。

五  有限会社丸福運輸の北木フエリー株式会社に対する損害賠償責任の有無。

本件トラツクの運転手である訴外吉岡正樹が、原告会社(反訴被告)の従業員でもあるといえることは、さきに認定した事実からも明らかであり、さらに原告河田葉子本人尋問の結果によれば、本件事故当日の運賃も原告会社の収入となるべきものであつた事実が認められるから、右吉岡は本件事故当時原告会社(反訴被告)の事業の執行中であつたものといえる。

しかしながら、訴外吉岡の前記最大積載量超過の行為をもつて、ただちに民法七〇九条所定の不法行為の内容をなす過失ということはできない(右行為が過失相殺の内容たる過失となることとは自ずから別異の事柄である)。

右積載量超過の点に関しては、成立に争いのない乙第八〇ないし第八二号証によると、本件事故当時、既に本件船舶の乗員である野田山、河田須和雄、被告掛本らは、本件トラツクに限らず、積荷車両が多かれ少なかれ積載超過である事実は十分予知していたし、現に、船長の野田山、甲板員で車両の誘導積込みに従事していた河田須和雄らも、「大抵規定の倍は積んでいたと思う」とか、本件トラツクを積込んだ野田山は「積んだ時、バランスをとるのに動かしたが、そのおりもエンストをおこしていたので、かなり重かつたのではないかと思う」旨を海難審判庁理事官に対し述べていること、被告掛本も、本件トラツクを積込む時には立会つていなかつたので積込みの状況はわからないとしつつも、大幅な積載超過車両の積込みを断われないものではない旨を前記理事官に対し述べていることが認められる。

そうであつてみれば、もともと本件船舶の航行の安全と積荷車両の安全輸送を本務とする被告会社(反訴原告)において、当初の車両積込み時に、より慎重な配慮がされるべきもので、積荷の車両が積載超過であることをもつて不法行為の内容たる過失なりとの旨の主張には容易に左たんし得ず、他にも右吉岡および原告会社に過失ありとの事実は本件全証拠によるも認めがたい。

従つて、北木フエリー株式会社の反訴請求については、その余に立入つて判断するまでもなく理由がないから棄却する。

第三結論

以上の次第により、被告北木フエリー株式会社および被告掛本成夫は各自、原告有限会社丸福運輸に対し金三五四万〇八一七円とこれにつき本件事故発生の翌日たる昭和五一年四月一七日から支払ずみまで年五分の割合による遅延損害金を、原告河田葉子に対し金九九万八四四五円とこれにつき右事故発生の翌日たる前同日から支払ずみまで年五分の割合による遅延損害金を、それぞれ支払う義務があり、右原告両名の本訴各請求はいずれも右の限度で正当であるからこれを認容し、その余の右被告らに対する各請求および反訴原告北木フエリー株式会社の請求は、いずれも理由がないから棄却することとし、訴訟費用の負担については、いずれも本訴関係で民事訴訟法八九条、九二条、九三条を、反訴関係で同法八九条を適用し、各仮執行宣言の申立はいずれも相当でないから却下することとして、主文のとおり判決する。

(裁判官 相瑞一雄)

目録

(一)

(減価償却資産の耐用年数等に関する省令に定める耐用年数、残存割合表に基づき定額法による償却をしたもの)

(二)

延べ石12尺1本尺四三方切 25,000

背板2寸板220面才×700=154,000

50ミリ板120〃〃×1,250=150,000

門柱一対 120,000

鬼赤8寸角4組×130,000=520,000

〃〃板石10×1.5×22 10枚 15,000

合計 984,000

(三)

営業収入(前月26日から当月25日までの1ケ月分を集計、ただし、昭和51年4月は3月26日から4月16日まで)

昭和50年8月 878,680円

9月 965,516

10月 793,740

11月 648,150

12月 833,550

昭和51年1月 590,040

2月 867,710

3月 881,750(3月までの合計 6,459,136円)

4月 587,400

営業利益(上記営業収入の5割はある)

すなわち、営業経費は

1 人件費1ケ月 180,000円

2 車の償却分1ケ月 151,857円

3 その他燃料代等があるが全体として5割を超えることはない。

昭和50年8月から昭和51年3月までの営業収入の1ケ月平均は6,459,136/8=807,392円

したがつて営業利益は403,696円となり

1日平均利益は403,696/30=13,456円

(四)

月給

180,000×82(休車日数)/30=492,000円

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